ハードウェア2023.10.06Written by ふなっしーcolumn No.11
Haivisionのモバイルトランスミッター「Haivision Pro」と、スマホ配信アプリ「MoJoPro」を検証
固定回線へのアクセスが無い屋外から、映像を中継する際の手段として挙げられるのは、衛星やマイクロ波を用いて伝送を行うことです。これらの手段は、安定した映像伝送を実現する一方で、中継車の手配や管理、オペレーションに係る人件費でコストがかかってしまいます。
そして、もう一つの手段として挙げられるのは、4Gや5Gなどのモバイル回線を用いて映像を伝送する方法で、最近は放送局でも採用が増えております。
今回は、モバイル回線を用いた映像伝送のソリューションの一つとして、1台で映像のエンコードからセルラー回線を通じた映像伝送までをこなす、「Haivision Pro」をお借りすることが出来たので、実際に触って検証してみます。
Haivision Proとは?
Haivision Proシリーズはカメラにもマウント可能な、SDIやHDMIで入力した映像をエンコードした上で、セルラー回線を含めたインターネット回線を用いて映像を伝送が可能なモバイルエンコーダです。
今回検証に使用するHaivision Pro 360-5Gは、2つのEthernet、Wi-Fi、5G対応の6つのセルラーモデムを搭載。ビデオ入力は、3G-SDIとHDMIに対応し、出力ストリームとして、SRTに加えてHaivisionの独自の伝送プロトコルであるSSTに対応しています。
さらに、より小型なモデルとしてHaivision Airもラインナップにございます。
SSTとは?
SST (Safe Stream Transport)は、Aviwest社 (後にHaivisionが買収)が開発した、Wi-Fiやセルラー回線のような無線ネットワークでも、信頼性の高い映像伝送を実現することを目的とした映像伝送プロトコルです。
特徴として、複数の回線を束ねて伝送を行うBondingが可能であったり、ネットワーク状態に応じて映像の解像度やビットレート、各回線に割り当てる帯域を動的に調整することが可能なので、セルラー回線のような不確実性が多い回線でも安定して映像が伝送することが出来ます。
さらに、手動で使用する回線に優先度をつけることも出来るので、例えばデータ無制限契約の回線を優先して使用するように設定することも可能です。
そのほかにも、SSTには、ビデオ受信側から中継先への映像の送り返しが可能なビデオリターン機能や、機器間ファイル転送、双方向インカム機能、PTZカメラ・ビデオ送信機のリモートコントロールが可能など、様々な機能があります。
SSTに対応したスマホ配信アプリ「MoJoPro」
屋外からの中継には、バズーカのような大きいカメラは使わない!もっとお手軽に生中継したい! という方にはMoJoProアプリもオススメです。
MoJoProは、SSTプロトコルを用いて、お手持ちのiPhoneやAndroidスマホから、撮影した映像をライブで伝送できるアプリです。MoJoProは、スマホのセルラー回線とWi-Fiの2回線のボンディングに対応しているので、複数回線を束ねられるSSTのメリットはそのまま。MoJoProはスマホのみで映像の撮影からエンコード、伝送まで完結するので、中継機材がさらに少なく済みます。
実際に、フランスなどの海外の放送局では既にニュース中継にMoJoProが活用されています。
MoJoProのライブ配信画面のスクリーンショット
手前がMoJoProで中継しているスマホ。
奥のテレビの右部にはMoJoProからの映像を表示。
実際にMoJoProを使ってライブ中継してみました。
最初に、映像の送信先IPアドレスやコーデック、伝送ビットレート、解像度を指定し、ライブ開始ボタンをタップするだけで、簡単に映像が中継ができました。
セルラー回線とWi-Fiをボンディングしているためか、映像が途切れたり、崩れることもなく、伝送は安定していました。
MoJoProの使用している回線の帯域を確認すると、ちゃんとWi-Fiとセルラー回線の両方で伝送されていました。
StreamHub (レシーバー)
ここまで、SSTの送信側装置としてHaivision ProとMoJoProを紹介いたしましたが、今度は、SSTの受信装置であるStreamHubをご紹介します。
StreamHubは、Haivision ProやMoJoProからの映像を受信・デコードの上、SDIやIPストリームとして出力することが出来る装置で、最大で8本の出力SDI出力が可能です。
※今回使用したStreamHubの筐体は4本までの3G-SDI出力に対応しておりますが、8本の3G-SDIや4本の12G-SDI出力対応の筐体もございます。
さらに、Haivision Proのリモートコントロールも可能で、StreamHubを通じ、中継先にあるHaivision Proの設定変更やライブの開始・停止・録画操作がリモートで行えます。
しかしながら、StreamHubのは単なるSSTのレシーバだけではございません!
StreamHubは、SSTの他にも下記のプロトコルの入出力に対応しています。
SST、SRT、RTMP、RTSP、HLS、NDI、RTP(TS)
プロトコル間変換や、トランスコード機能もあり、トランスコードした映像のIP出力が可能なので、メディアゲートウェイとしての使い方も可能です。
他にも、StreamHubへ入力された映像を、Haivision ProやMoJoProへ送り返すことが出来る「ビデオリターン」機能や、PCからWebカメラを使って、Web会議のように映像をStreamHubへ伝送する「LiveGuest」機能、StreamHubへの複数の入力映像を1枚の分割画面として出力するマルチビュー機能など、1台で多機能な装置です。
マルチビュー機能
LiveGuest機能
ビデオリターン機能
StreamHubを実際に使ってみた
構成図
下図の構成で、実際にStreamHubにストリームを受信させ、IPとSDIで映像を出力してみました。
今回は、MoJoPro (SST)やHaivision Pro (SST)からの映像に加えて、他社製エンコーダとの互換性検証も兼ねて、Elemental Live (RTMP)や、Kiloview E1 (SRT)、Haivision MakitoX (SRT)と弊社映像配信プラットフォームの3rdNET (HLS)のストリームもStreamHubに受信させてみました。
StreamHubへの入力ストリーム
- Haivision Pro 360 (SST)
- MoJoPro (SST)
- MakitoX Encoder (SRT)
- Elemental Live (RTMP)
- Kiloview E1 Encoder (SRT)
Stream Hubからの出力
- SDI (マルチビュー画面)
- HLS (Pro360からの映像をトランスコード)
そして、後述する「マルチビュー」機能で上記の入力ストリームを1つのマルチビュー画面の映像としてSDIで出力。併せて、ライブストリームも表示OKな弊社のサイネージ製品「KAWARA板ネット」に、Pro360からの映像をStreamHubでトランスコードの上、HLSで送信。
さらに、StreamHubのビデオリターン機能を使い、StreamHubで受信したストリームをHaivision Pro360に対して送り返しを行います。
StreamHubのWebUI画面。
StreamHubに入力された映像、トランスコードを行っている映像、出力している映像がサムネイル付きで一覧で表示されています。この画面から入出力の開始・停止や、ストリームの設定、出力する映像の選択が可能。
「IP入力」を「SDI出力」や「IP出力」にドラッグアンドドロップするだけで、出力する映像ソースを指定でき、操作は非常に簡単でした。
SRT vs SST 遅延比較
<比較手順>
リアルタイムな時刻を表示可能なWebサイト「Time.is」をWebページも表示可能な弊社のサイネージ端末「KAWARA板ネット」へ表示。KAWARA板ネットからの映像をMakitoX (SRT)エンコーダと、Haivision Pro360 (SST)に入力させ、エンコーダさせたうえで、StreamHubへ伝送。
StreamHubでMakitXとHaivision Proからの映像をマルチビュービューで出力し、モニターへ投影。「Time.is」を表示させたPCの時刻と比較を行う。
SSTでの伝送は、何回か試行錯誤してみた結果、バッファをモバイル回線のみで安定して伝送が可能なギリギリの遅延である2.5秒を設定。
結果、SRTでは遅延は1秒で、SSTは遅延が3秒となった。
MakitoX (SRT) は有線回線でStreamHubへつなげているので、エンコード設定でバッファを300msまで下げても安定して伝送が出来たが、Haivision Pro (SST)はモバイル回線なのでバッファを削りすぎると映像が乱れてしまう。
その他のStreamHubの機能についても触ってみる
ビデオリターン機能
ビデオリターン機能は、StreamHubにて受信した映像ストリームを、トランスコードを行った上で、Haivision ProやMoJoPro、LiveGuestに送り返すことが可能な機能です。スタジオの映像や、他の中継先の映像、プロダクションで編集された映像等をリアルタイムで中継先へ送ることが出来るので便利です。
もちろん、Haivision ProやAirでもビデオリターン機能は利用可能です。ProやAirには、HDMI OUTやSDI OUTポートがあるので、そちらのポートからStreamHubからのビデオリターン映像を出力することができます。
おまけ : StreamHubから映像をKAWARA板ネットで受信してみた
本検証により、モバイル伝送に特化した次世代の伝送プロトコル「SST」に対応したMoJoProや、Haivision Pro/Air を用いることによって、セルラー回線でも安定した映像伝送が行えることがわかりました。
他にも、各機器をリモートで操作が行えたり、ビデオリターン機能、マルチビュー機能など、複数の場所から同時にライブで映像を送るオペレーションにも対応できる機能が揃っておりました。
さらにStreamHubは、トランスコード機能が搭載されている他にも、SSTやSRT以外のRTMPやHLSを含めた様々なサードパーティーのプロトコルに対応しており、単なるモバイルエンコーダの受信機以外の用途でも活用出来ると感じました。
(1台で出来ることが多く、あると便利なので弊社のラボ室にも1台欲しい!)
もし、MoJoProやHaivision Proを用いたモバイル映像中継や、StreamHubにご興味をお持ちの場合は、実機を使ったデモの手配も可能なので、是非、弊社までお問い合わせください!
ふなっしー2022年9月にイノコスへ入社。元々「IT」と「映像配信」の分野に強い興味があり、両方の分野で仕事ができるイノコスに惹かれて入社。イノコスに入る前はアメリカで学生をやっており、高校から大学までアメリカで過ごしたイノコスのU.S.逆輸入ファイター。営業チームのメンバーではあるが、技術の仕事もよく任される。社内での愛称は「ふなっしー」。好きな食べ物は寿司。