映像関連2023.07.27Written by ふなっしーcolumn No.9
ウェブ配信の遅延は設定でどこまで切り詰められるか
インターネットを通じて、ライブ配信を行う上で避けられないのが映像の遅延。一方向のライブ配信では、映像の配信はあまり気にならないかもしれませんが、ライブ配信者と視聴者がチャットを通じてコミュニケーションを取る配信や、スポーツライブやギャンブル系の配信などリアルタイム性が求められるライブ配信では、映像の遅延は出来る限り抑えたいところ。
とはいえ、映像を伝送する際には、エンコーダーやサーバー上でエンコードやパッケージングの処理を行うので、どうしても映像に遅延が発生してしまいます。そこで本記事では、配信サーバや送信側の設定、使用するプロトコルを変更することにより、ウェブ配信の遅延をどこまで切り詰めることが出来るのかを検証したいと思います。
検証構成
ビットレートや、送信側プロトコル (RTMP/SRT)、受信側のプロトコル (LL-HLS/HLS/DASH)を変更したり、配信の設定を変更することにより、配信の遅延がどこまで変わるかを検証します。
実際の検証の様子 (イノコスの会議室にて)
検証① 送信側のプロトコルの遅延を比較してみる
ライブ映像を、SRTとRTMPで配信サーバーへ送信し、HLSで受信。
映像の遅延は、SRTとRTMPで変わるのか?
結 果
送信側のRTMPとSRTを比べてみると、RTMPの方が、SRTより0.5秒遅延が短かった。
送信側のプロトコルでは、映像遅延にあまり差は見られず。
検証② 受信側のプロトコルでの映像遅延を比較してみる
今度は、受信側のプロトコルでの映像遅延を比較してみます。
この検証では、HLSに加えて、MPEG-DASHとLL-HLS (Low-Latency HLS) の3つのプロトコルで映像を出力。なお、配信サーバーの映像の入力はSRTで行っています。
そもそもLL-HLSとは?
LL-HLS (Low Latency-HLS) は、Appleが2019年のWWDC (世界開発者会議)にて発表した、低遅延の映像配信を目的とする次世代の映像伝送プロトコルです。LL-HLSは、既存のHLSを拡張して開発されたため、HLSとの後方互換性をもっています。通常、HLSでは、ビデオを「セグメント」に分割して伝送しますが、LL-HLSでは、さらに「セグメント」からより小さい「パート」に分割したうえで、映像を配信するため、低遅延な映像配信を可能とします。
SRTで配信サーバーへ入力し、MPEG-DASH、HLS、LL-HLSの3つのプロトコルで映像を出力。
それぞれの遅延を比較してみます。
結 果
LL-HLS出力の映像遅延は「3.2秒」で、HLSと比べて23秒、MPEG-DASHと比べ21.8秒、映像の遅延が短く、大幅に遅延を短縮できた。一方で、MPEG-DASHの遅延は、HLSと比べ、1.2秒短いという結果となった。
検証③ LL-HLS 設定をチューニング
検証③では、LL-HLSのパートの長さを2000ミリ秒から500ミリ秒へ短縮する設定のチューニングを行った上で、遅延がどう変化するのかを検証。(入力側はSRTで入力)
結 果
LL-HLSの設定をチューニングした結果、映像の遅延が2.0秒となり、検証②のLL-HLS出力の映像遅延よりも、1.2秒遅延が縮まった。
番外編 試しにビットレートを下げて配信してみる
試しに映像伝送のビットレートを5Mbpsから1Mbpsへ下げ、映像の画角についても1080pから720pに落とした上で映像配信を行った。
結 果
ビットレートと映像の画角を落とした結果、LL-HLS出力の映像遅延は「1.6秒」となった。
結果、検証③と比べ、映像遅延が0.4秒縮まった。
送信側プロトコルでは、RTMPとSRTで比較を行ったが、映像の遅延の差は0.5秒程度にとどまった。
受信側のプロトコルでは、MPEG-DASHとHLS、そしてLL-HLSで映像の比較を行った。HLSとMPEG-DASHで比較すると、MPEG-DASHの方が1.2秒、遅延が短い結果となったが、LL-HLSでは、HLSと比べて23秒、MPEG-DASHと比べ21.8秒、映像の遅延が短くなる結果となり、LL-HLSが劇的に映像遅延を短くできることがわかった。
さらにLL-HLS設定をチューニングすることで、最小で遅延を1.6秒まで抑えることができた。今回の一連の検証では、入力側の遅延自体は、全体の映像遅延の中ではあまり比重が大きくなく、遅延を切り詰めるには受信側のチューニングの方が重要であるように思えた。
次回、映像の遅延検証を行う際には、映像送信側のエンコーダや回線を変えて比較してみたり、
LL-DASHやWebRTCなどの、その他の低遅延を謳う映像伝送プロトコルを使用して検証を行いたい。
ふなっしー2022年9月にイノコスへ入社。元々「IT」と「映像配信」の分野に強い興味があり、両方の分野で仕事ができるイノコスに惹かれて入社。イノコスに入る前はアメリカで学生をやっており、高校から大学までアメリカで過ごしたイノコスのU.S.逆輸入ファイター。営業チームのメンバーではあるが、技術の仕事もよく任される。社内での愛称は「ふなっしー」。好きな食べ物は寿司。